前の記事において、「戦略人事とは何か」という意見を述べた上で、それとは反対の行動例についていくつかあげました。今回はその続編となります。
では、戦略人事を意識した人事スタッフとしての行動・経験とはどんなものが考えられるのか、現時点の私の意見をあげたいと思います。きっと、時間が経過してから見直すと、新たな視点が出てきたり内容が変わっていくのではないかと・・・。
人事部門にとっての「顧客」=「社員」であり、事業部門であることを再認識しましょう。そのうえで、以下の3つを提言します。
事業を理解し自分事にとらえる機会を意図的に設ける
例えば、「戦略会議」に参加する時は、「その会議の内容から人事として何ができるのかを考え、それを提言し続ける」ことだと思います。その前提として、「事業を理解すること」を怠らないことだと思います。特に、自分自身が事業部門に在籍したことが無い場合はなおさらです。
人事は目先の採用やESだけでなく 中長期の組織を視野に入れた制度や仕組みをつくり、事業に対してのキャッチアップも行い続けなければいけないと思っているので とても奥が深い役割だと思っています
— 炒飯コンドウ (@sithkng) August 15, 2018
そうでなければ、ツールやソリューションばかりにフォーカスする人材開発担当者や、スタートアップ企業の人事担当者にありがちな「事例くれくれ君」に陥るだけでしょう。
前回の例でも、事業部門のリーダー会議にHRBPが招集されていたこともあったようです。ただ、それにもかかわらず、「特に何かを発言するわけでもないし、採用面接とかで忙しいのに・・・」と言っている方すらいました。もったいない。というより、その方々はそもそも招集されていた意図や事業部門からの期待内容をわかってなかったのでしょう・・・。
事業戦略に則した人事施策を事業部門に提案する
事業戦略に則した人事施策を、事業部門に提案していくことが肝要です。
例えば、新しい店舗を半年後にオープンすることが決まった場合、その店舗の構成人数だけではなく、そのうちの何名を既存店舗からの異動で対応するのか、あるいは外部から採用するのか、といった素案や、それに伴って発生する異動案を店舗の環境やスタッフの特性なども考慮して提言するといったことがあげられます。外部から社員を採用する際に、タレントプールから何名かピックアップして、「経験やスキル、キャラクター、キャリア経歴のイメージ」といった「ペルソナ」が事業部門と共有できれば、採用も順当に進めることができるかもしれません。
人事部門からみて明らかに正しいこと/自明なことであったとしても、事業部門からすればニーズが無いものや時期尚早な施策であった場合は、それは引っ込めるといった判断も必要となってきます。
「研修に悪いものは無い」のは事実だと思いますが、繁忙期にマネージャー向けに評価研修を企画していたならば、それだけで人事部門に対する信頼度合いは低くなるでしょう。
人事の中で様々な分野を担当する
人事の中では「採用」「育成」「報酬」「労務」「企画」「HRIS」「HRBP」など様々な分野があり、その中の一つだけにフォーカスして「専門職化」するのは、あまりにも視野が狭すぎます。実際の担当が「育成」であっても、それ以外の業務については何も知らないというのでは、その育成プログラムが会社にとって適切なのかどうかすらも判断できないでしょう。
そのためには、他分野の担当にジョブローテンションをする、あるいは、自分の専門分野を少しづつ広げていくというキャリア構築が必須でしょう。育成から採用というように、関連性が高い分野への拡張は比較的容易だと思います。
人事部門の責任者ならば、部下の特性もふまえたジョブローテーションを実施するべきです。「安定的な体制」を作るために、役割を固定していていると、結果的にはそれは「不安定な体制」になるでしょう。
社内で経験がつめればベストですが、それがどうしても難しい場合は外部に機会を求めるのも選択肢としては存在しています。ただし、そういった場合は、最初は経験した分野で早い段階で成果を出すことを前提とするなど、転職先にとってのメリットもあった方が具現化しやすいでしょう。あるいは、人事部門の規模がそれほど大きくない会社ならば、必然的に一人で何役も担当することになるので、そういった視点から働く環境を選んでもよいかもしれません。
ここにあげた内容だけではなく、様々なアプローチの仕方はあると思います。ただ、何度も繰り返しますが、採用広報に力をいれることによって、事業戦略から鑑みた競合他社との差別化・優位性を人事面から構築できるならば、それは全く問題ありません。しかし、戦略人事とは採用広報を実施すればよい、と思って取り組んでいるならばそれは誤解であり、実際には何も「戦略的ではない」ということです。