「静かな退職」あるいは「不機嫌な在職」という現象が増えています。「静かな退職」は、従業員が会社に不満を持ちながらも、それを表に出さずに転職活動を行い、新しい職が決まり次第退職することを指します。このような従業員は、会社に対する愛着や忠誠心が低く、組織に貢献する意欲もないため、パフォーマンスや生産性にも影響を与えます。
一方、「不機嫌な在職」とは、従業員が会社に不満を持ちながらも転職することができない、あるいはしないという状態を指します。このような従業員は、会社に対する不満や不信感を隠さずに、周囲にも悪影響を及ぼします。また、ストレスや不安から、心身の健康にも問題を抱えることが多いです。
なぜこのような「静かな退職」「不機嫌な在職」といったことが発生しているのか、また、こういったことが目立って発生する企業の特徴とは何かについて考察します。さらに、会社としてどのような対策を講じるべきかについても考えてみたいと思います。
「静かな退職」と「不機嫌な在職」の違い
「静かな退職」と「不機嫌な在職」の違いは、主に従業員の転職意欲と転職可能性にあります。
- 転職意欲:従業員が現在の会社を辞めて別の会社に移ることに対する意思や動機
- 転職可能性:従業員が実際に転職することができるかどうかに関する要因
静かな退職
「静かな退職」をする従業員は、転職意欲と転職可能性の両方が高いです。彼らは、企業との価値観や目標、期待が一致していないと感じており、自身のスキルや人間性が現職の企業内で適切に評価されていないと感じる場合があります。これはリーダーシップのスタイル、企業文化、キャリアの進展に関する明確な道筋の欠如、または報酬や他者からの承認が不足していることも考えられます。
また、自分の能力や経験を一定以上であると自己評価し、社外に出ても通用する価値があると考えています。そのため、積極的に転職活動を行い、自分に合った会社を探します。現職の会社に対する不満を表に出さないのは、社内でのトラブルを避けたり、必要以上に評判を落とすことを避けるといった背景があります。
不機嫌な在職
一方、「不機嫌な在職」をする従業員は、転職意欲と転職可能性のどちらかが低い、あるいは両方が低い傾向があります。彼らは、現在の会社に不満を持っていますが、なんらかの理由(経済的安全性、選択肢の不足、不確実性など)のため、転職意欲が低く、「結果的に」退職を選択していない状況です。自分の能力や経験に自信がなく、社外でのマーケット価値が低いと感じているため、そもそも転職活動を行っていないことが多いです。
しかし、現状の環境に対しては不満を持っています。具体的には、「仕事への満足度が低い」、「職場の環境や文化に満足していない」、または「自分の能力が十分に活用されていない(ゆえに、処遇や報酬が自分の期待より低いと思っている)」といったことです。これらが、従業員が不機嫌かつ不満足な状態で働く理由となります。彼らは、会社に対する不満を表に出すのは、自分の感情を発散したり、会社に対する抵抗や批判を示すためといった理由があります。
この2つの状況は異なりますが、その背後には共通のテーマがあります。それは、従業員の満足度や組織へのコミットメント、職場に対するカルチャーフィット、そして双方向の価値提供が大いに影響を与えるということです。
「静かな退職」「不機嫌な在職」が多く発生する会社の特徴
「静かな退職」「不機嫌な在職」のように従業員が企業に対し低いエンゲージメントを示す背景には、多くの場合、いくつか共通点が見られます。
- 従業員エンゲージメントの欠如:従業員の意見が無視されたり、従業員の意見が組織に反映されない
- 評価と報酬の不一致:成果を正当に評価しない、またはその評価を報酬や待遇改善に結び付けない
- モチベーション向上策の不足:従業員のモチベーション及びエンゲージメント向上を図る取り組みが無いあるいは従業員に認知されていない
- キャリア支援の欠如:従業員が自身のキャリア及びスキル開発を企業から支援されていない
- 働き方の多様性への対応不足:職場環境における柔軟性・多様性への理解と対応が少ない
- 健康と安全の環境整備:従業員の健康と安全への取り組みが不足している
「静かな退職」「不機嫌な在職」を少なくするためにできること
組織における「静かな退職」や「不機嫌な在職」を防ぎ、最小限に抑えるためには、以下のような対策を講じることが効果的です。
風通しの良い文化の確立
- 定期的に上司からフィードバックが得られる機会を設ける
- 従業員が意見を自由に共有できる環境を作る(社内SNS、イベント実施など)
公平な報酬体系
- パフォーマンスに基づく報酬・処遇決定における透明性を高める
- 結果と報酬の一致を明確にする
プロフェッショナル成長の支援
- キャリア・スキル開発を促進するプログラムを提供
- 自己効力感(目標達成能力を自分自身が持っていると認識する)を認識できる機会の提供
柔軟な労働条件の提供
- リモートワークやフレックス制度などの勤務に関するオプション提供
- 上記も含む仕事とプライベートのバランスを考慮した施策推進
健康的な労働環境の維持
- 安全性とウェルビーイングに優れた職場環境を確立
- 従業員の満足度とエンゲージメントを向上について定期的なモニタリング
これらの施策を組み込んだ総合的なアプローチを取り入れることで、組織は「静かな退職」や「不機嫌な在職」の問題に対して効果的に対処できるでしょう。すべてを実施するというより、各社にとって必要なものから取り組みましょう。