給与・社会保険業務をアウトソーシングするにはどんな準備が必要なのか?

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この記事を書いた人
Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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「給与・社会保険業務のアウトソーシング=他社にお願いする=導入することを決定すればすぐにできる」と認識している人は多いかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。

特に人事業務の経験が無い社長などが、「(社員の)業務を減らすためにアウトソーシングしよう。どこに頼むのかを決めれば、来月からでもすぐできる」といったことを言って、かえって現場を混乱させていたのをみたことがあります(笑)。たいていは、3ヶ月~半年程度は準備期間は必要です。では、実際にはどんなことが想定されるのかをご紹介したいと思います。

確認・整理すること

現行業務プロセス

現行業務の確認・生理を行うことになります。どういう手順で何を行っているのか、その結果をインプットとして次に何を行っているのかといったことを、アウトソーサ―に伝えるためにも、場合によっては文書化も必要となるでしょう。

今まで社内で業務を行っていた場合は「不文律」で成り立っていた業務も、アウトソースする場合は、ケースとしてまとめてそれを的確に要件としないと、その業務そのものが抜け漏れることになります。

各手当の算出ロジック

給与計算において、勤務回数/時間・役職・勤務地などを変数として確定する手当の算出ロジックも文書化する必要があります。既に文書化されていれば、それをもとに説明すればすむことですが、文書そのものが実際の業務と異なっていたり、担当者の頭の中にしかない「イレギュラー対応方法」などがあった場合は、何らかの形で明示することが必須です。

細かいロジックの手当はこういったアウトソーシング化をきっかけに廃止あるいはロジックをシンプルにすることも検討できるかと思います。そうなると、社内調整が発生する可能性が高いので、時間もかかることが予想されます。

準備・実施すべきこと

データ提出の集計方法検討・実装

アウトソーサ―にデータを提出するための方法は、アウトソーサ―から指定されるので、それほど検討の余地もないでしょう。セキュリティーが担保されたサイトにデータをアップロードするのか、あるいは、何らかのシステムにデータを登録するのか・・・。受け口はアウトソーサ―によって異なるとはいえ、何らかの決まりがあるはずです。どちらかといえば、「提出するためのデータ」をどうやって作成するのかといったことを決める必要があります。

具体的には以下のようなカテゴリーになります。

  • 人事/組織マスターデータ
  • 勤怠データ
  • 給与/賞与データ
  • 年末調整情報
  • 社会保険情報

また、集計結果を提示すればよいのか、算出のために必要な基本情報を提示するのか・・・といったことも、アウトソーサ―によって異なってくるでしょう。

業務プロセスの定義・月次/年次スケジュール策定

アウトソースすることによって、業務プロセスは多かれ少なかれ変更が発生します。今まで内製で行っていた場合、「データを提出するための期限」や「計算結果の確認・修正期限」といった、今までには無かった「期日」が発生します。

マスターデータ移行準備・作成

アウトソーサ―に提出するためのマスターデータの準備・作成を行います。今まで使用していたシステムからデータを抽出すれば終了するケースもありますが、たいていはコード変換、複数項目の統合、1つの項目から複数項目の作成、といったことが必要となります。また、データの中身を改めて確認すると登録内容に問題があり、データクレンジングを行うことも「あるある」です。

実業務テスト(並行稼働)・修正

実際の業務をいきなり新しい仕組みで運用するということはなく、1ヶ月~3ヶ月程度は従前の方法で業務を行いつつ、新たな方法で業務を行う「並行稼働」を行います。並行稼働の目的は以下があげられます。

  • 不具合原因の特定

    • 並行稼働期間を設けておくことで、その期間中に発生した給与計算結果の差異について、①システムの仕様による違い(端数を丸めるタイミングや桁数)による必然的なもの、②データ入力・登録内容によるものなどといった、原因特定がしやすい。

  • 実践的なユーザートレーニング

    • どれだけエンドユーザートレーニングなどを行っても、慣れていないことに起因するトラブル発生が予想される。並行稼働のフェーズを設けていることで、その期間がユーザートレーニング=OJTそのものとなるため、本稼働後の人為的なトラブル発生頻度をおさえることが可能となる。

「アウトソースするのだから、そんなダブルワークは不要だろう」という意見もあるかもしれません。もちろん何かあっても、「新しい仕組みにしたので致し方ない」とリスクを受け入れられるならばそのとおりかもしれません。ただ、給与業務において「支給・控除ミス」はあってはならないことなので、最善をつくすためには並行稼働は行うという選択は現実的なものではないかと思います。

また、並行稼働を行ったことで出てきた課題を対処することで、業務の微調整を行うことも可能です。

何かの時にはこの記事を読んでもらう

このように、「アウトソースする」ということは、思っている以上に簡単なものではなく、それなりに準備時間がかかるものです。もし、みなさんの会社の社長などが「来月から給与関連業務をアウトソースする」と言い出したら、そのためにはある程度の時間(3ヶ月から半年)は必要であることを説明しつつ、この記事を読んでもらってください。

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