ダイバーシティや働き方改革に数値目標は必要だが、それしかないならやらない方がマシ

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Nagami@Aldoni Inc.

事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして独立。人事領域全般のコンサルティングを主な事業としているアルドーニ株式会社の代表。

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「HR Solution Forum」にてJALの人事部門の方が登壇するセッションも受講しました。テーマは「ダイバーシティ」。ダイバーシティ=女性活用 という方向なのかな?と思ったら、まさに予定調和でした。後半は「働き方改革」について。これは、今やトレンドといってもよいでしょう。

このセッションの内容と、そこから関連して「数値目標しかないダイバーシティや働き方改革は、むしろ有害」、ということを述べたいと思います。

「女性管理職の比率を上げる」という目標は適切か?

属性が多様化するだけではなく、違った見方や価値観を議論してつくりあげ受け入れることが重要との認識だそうです。JALの男女社員数は、47%が女性、すなわちほぼ半々。その一方で、女性管理職の比率は、2015年3月末時点で15%。上記の視点から、この比率を20%にすることを目標に掲げているようです。

個人的には、「女性管理職比率をXX%にする」という数値目標だけを設定するのはいかがなものかな、と思っています。(あくまでも私見です。)

管理職比率XX%という会社の目標があると、「女性だからという理由で、(本来ならばそこまでの段階・レベルではないのに)管理職に登用している」状況がどこかにあるのではないかと、社員から疑われても仕方ないと思います。女性社員の定着率をはかる指標として使っているだけなのは、個人的には理解しています。

女性に限らず、ライフスタイルの変化に応じて働ける環境や制度をつくることは、会社として必要かつ取るべきアクションだと思います。それが、社員のエンゲージメントを高めることにつながるし、「社員から選ばれる会社」になることでもあるでしょう。

具体的にはどのような施策を打って、その管理職比率を達成しようとしているのでしょうか?この点もあわせて明示・実行しないと、「同じ評価(レベル)だったら、女性だという理由で「ゲタ」をはかせることになるのでは?」と思われても致し方ないでしょう。

ただ、セッションで話されていたことから推察するに、「配置先に男女差が今まではあった。それをできるだけ無くしていきたい。」という、「日本企業あるある」の状況だったようです。それを変えるために打ち立てた目標なんでしょう。

働き方改革=残業時間削減ではない

JALでは柔軟に働ける環境を整備し、全社員がワークスタイルを変革するために、「フレックス勤務制度」「在宅勤務制度」を拡大させると同時に、残業「半減」を目標にしたようです。ここに、参考にすべき点が2つあると感じました。

  1. 最初に「特区」と呼ぶ対象部門を限定したパイロットを実施→徐々に対象を拡大
  2. 残業時間を削減するための 具体的なルールや仕組みを導入し、さらに「見える化」した
    • 会議は17時30分まで、電話・メールは18時30分まで、遅くとも20時までに退社
    • 資料のペーパーレスおよび全てを共有化することで、過去資料の活用および効率化を徹底
    • 資料の電子化による収納ラックを削減し、そこに打ち合わせスペースを増設
    • 仮想デスクトップやスマホの導入などのIT投資によって、場所の制約を撤廃
    • 「勤務実績報告会」にて全部門の状況(残業実績、年休取得実績など)を公開し、さらに全部門長が分析結果や打ち手を報告

「働き方改革残業時間削減」と考えがちですが、実際には「働き方改革残業時間削減」というように、働き方改革の目的が残業時間削減ではなく、働き方改革によって残業時間削減が実現できるというのが本来の姿だと思います。

仮に「働き方改革=残業時間削減」ととらえていると、残業時間削減の数値目標を掲げるだけで、それに対する具体的な支援や手法については全くふれない状況に陥りがちです。そうなると、「会社からは退出するが、仕事を家に持ち帰って対応していた」など、某広告代理店のような違法労務管理につながるだけでしょう。

中途半端な数値目標だけならば却って有害

世の中の趨勢だから、といった理由だけでダイバーシティや働き方改革を導入しようとすると、たいていは、上っ面の数値目標だけを設定して、それをどう実現させるのかは現場まかせということが多いです。根拠の無い変なノルマを課されるだけなので、歪んだ手法で達成しようとするだけです。

私が在籍していた事業会社でも、「残業時間数をXX時間以内にする」という全社目標が出されたことがありました。

結局、「要領よく仕事ができる人が、(残業時間数が多い人の仕事を、担当に関係なく)肩代わりをさせられる」ということが発生していました。さらに、会社としてどういった支援をするのかといったことは何も言及せず、人事部門長が、残業時間数の多い部下を抱える現場部門のマネジャーに対して「指導」するだけといったことも・・・。

こういったことが起こると、社員のモチベーションもエンゲージメントも下がるだけです。それならば、最初から「変な」数値目標は持たない方がまだマシです。

ダイバーシティや働き方改革は、実現させるために会社がどういう支援を施策として打ち出すのか、ということがセットであるべきです。

HR Solution Forumの所感

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