先週参加したATD2017のセッションの中では、人材開発プロフェッショナル(以下、L&Dプロフェッショナル)がエグゼクティブや他部門に求められていること/必要なこととは、どういうことなのかをテーマとしているセッションがありました。セッションタイトルに、「Strategic Business Partner」「to Be More Strategic」といった言葉も使われていたように、「研修を企画してデリバリーする」だけの段階は、終わりつつあると断言できます。
今回は、いくつかのセッションから読み取れた「戦略的パートナーとしてのL&Dプロフェッショナルに求められるもの」をご紹介したいと思います。
そもそも研修を受講することは目的ではない
あるセッションの資料が、私にとってはかなり「腹落ち」した内容でした。
No one needs training… They need the outcomes of training
(誰もトレーニングを必要としているわけではなく、トレーニングの結果を必要としている)
<SU414 – L&D Best Practices: 5 Approaches to Be More Strategic>より
人材開発担当者は「どんな研修内容がいいのか」とか、社員の特性をはかるのにDiSCがいいのかMBTIがいいのか・・・という方法論に陥りがちです(笑)。この辺は今一つ再認識する必要はあるな、と思いました。「研修の方法論を語るの(だけ)大好き」って人材開発担当者、結構いるんですよ・・・。
しかし、もともとはトレーニングそのものが必要なのではなく、それを受けたことによる、ビジネス上で「結果」や「成果」を出すためにトレーニングを受けるのです。場当たりではない戦略的なL&Dによって得られる結果とは、以下の通りです。
- ビジネス展開するために、社員が適切なスキル/コンピテンシーを持った「GAPの無い」状況になっている
- 企業の継続的な投資としてL&Dが選ばれる
- 競争優位になるための根源としてL&Dが位置づけられる
ビジネスとラーニングの両方に精通
L&Dプロフェッショナルなので、ラーニングについて掌握しているのは当然ですが、自社のビジネスについても掌握しているべきです。これは、L&Dの分野に限らず、人事全体で言えると思います。
最近、私はスタートアップ会社の採用戦略について話を伺う機会が増えました。その中で、「(エンジニアなどの特定職種の方を)採用するために、自分自身もそういった知識を学ぶことで、採用候補者や採用部門のマネジャーと共通の言語を持てるように心がけた」という趣旨の意見を、複数の会社の方がおっしゃっていました。これは、まさに自社のビジネスを理解しようとする行動のあらわれだと思います。
コンサルティングスキルは必要
L&Dプロフェッショナルは、組織の問題を解決にフォーカスした「信頼できるアドバイザー」となることが求められています。78%のエグゼクティブが、上記の点を重要と認識しているようです。(SU414 – L&D Best Practices: 5 Approaches to Be More Strategicより)
社内の組織が持っている懸念点を理解し、それを解決できるよう努力することが求められています。具体的には、組織のニーズ・優先度の高いもの・関心事を理解し、それらを導き出すために適度に質問を投げかけることが重要だそうです。
トレーニングに関しても、ステークホルダーの意見や思いを聴く、さらには彼らを巻き込むことは「基本のキ」とも言えるでしょう。
また、L&D責任者の95%はビジネスパートナーとして行動するべきである、という認識をしています。ある種「要件と意向の一致」と言ってよいでしょう。(TU114 – Bending the Curve by Meeting the Needs of Modern Learnersより)
ナレッジマネージャー/キュレーターとしての役割を担う
L&Dプロフェッショナルは、トレーナー/コンテンツ・プログラム開発担当者としての役割よりも、ナレッジマネジャーやキュレーターとしての役割の方が高くなっているようです。もともとキュレーターとは、「美術館や博物館などで、展示する作品の企画から運用まで全般を請け負う仕事。<引用:キュレーターとは – コトバンク>」、すなわち「学芸員」のことでした。一方、Web・インターネットにおいて、キュレーターとは以下のことを意味します。
ひと言で言うと、情報やコンテンツを「収集」「選別」「編集」「共有」することです。まずは情報を集め、その情報を特定のコンテキストや視点を基準に取捨選択し、重要度に従って並べ、最終的にはみんなでシェアする。この一連の流れがキュレーションです。
要するに、「有益な情報を選定して配信を行う人」と言えるでしょう。こういった視点でL&Dに取り組む必要があるということです。組織におけるラーニングカルチャーの形成にもつながります。
ラーニングストラテジーを供給・推進し、見本となる
職場でのExperience(経験)とLearning(学習)をつなぐための仕掛けの導入・展開(=ラーニングストラテジー)は、もはや必須と言えるでしょう。マイクロラーニングやSNSなどを使ったソーシャルラーニングによって、相互学習と変化が組織に継続的におこる「ラーニングカルチャー」を形成していくことは、これからのL&Dプロフェッショナルに強く求められています。
さらに、充分に経験を積んだL&Dのプロフェッショナルとして、L&D部門スタッフのスキルの底上げも期待されています。自分たちが見本となってラーニングカルチャーを推進しなければ意味はありません。
セッションの中でUMUを使って、質問に対する意見をその場で募ったり、選択式の質問の回答を集計したりするものがいくつかありました。今回のATD以外にもテクノロジーを使ったインタラクティブなセッションに参加したことがありますが、HR Techを使いこなすトレーニングはもはや特別なものではありません。
こうなると、日本の研修現場は周回遅れ以上の何かなのかもしれません。幼少の頃から携帯電話などのテクノロジーに囲まれて生活していたミレニアル世代が、社会人どころかマネジャーや経営層にもあらわれつつあるのが、2017年です。L&Dプロフェッショナル自身が、「過去の習慣」にこだわらずに変わっていかなければいけない、今年のATDはそんなメッセージを強く発信していたと思います。
*画像は私が撮影した2017年ATDの一コマです。