先日、日本マイクロソフト社(以下、マイクロソフト社)が「2019年8月の1ヶ月は全て週休3日とする」制度を導入すると発表しました。8月の1ヶ月について、金曜日を全て有給休暇とすることで実現させるようです。さらに、旅行などに行く場合は、それに対する最大10万円分の補助金(福利厚生ポイント)の支給も行うことも発表しています。
実施した結果を解析し効果測定を行うとともに、今後の制度拡張も検討するらしいです。この件について、人事的視点からどういう特徴・意図があるのかを考察したいと思います。
給与調整を行わない
ここ数年で大企業を中心に、「週休3日制」を導入するケースは実在していました。過去にこのサイトでも取り上げましたが、アマゾンのUS本社やヤフー株式会社が例としてあげられます。
ただ、アマゾン(US)社の場合、給与は75%支給でかつ、HR技術システム関連チームという限定した組織だけが対象でした。また、ヤフー株式会社の場合は、育児・介護・看護を行う社員を対象に週休3日(週4日勤務)を選択できる「えらべる勤務制度」として導入しており、週5日の勤務が4日に減る分、給与も2割程度減るようです。
これに対してマイクロソフト社の場合は、
- (部門に関係なく)正社員対象
- (有給休暇消化のため)給与調整無し
というように、適用範囲が広くかつ給与調整を行わないのが今までのケースとは異なります。
有給取得義務化に対応する
今年4月から有給休暇の取得義務化が実施されたことは、記憶に新しいと思います。これは端的に述べれば、「1年間に10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、5日の有給休暇を取得させることが会社側に義務付けられる」ものとなります。
ところで、2019年8月の金曜日は5回あります。何か気づきませんか(笑)?
そう、この制度を実施することで有給取得義務化への対応が「実質的には完了」します。今回の労働基準法の改正には罰則が定められており、「最低年5日の年休を取得させなかった場合、従業員一人当たり最大30万円の罰金に処せられ」ることになります。
マイクロソフト社の正社員は2300人だそうで、仮に全員が年5日の有給休暇を取得しなければ、約7億円の罰金を支払うことになります。
全社員が有給休暇を5日消化できないということは無いだろうとはいえ、有給取得率などは会社としてデータを持っているはずです。そこから、「いくらぐらいの罰金を支払う可能性があるのか」はだいたい試算できます。
そうなると、「国に税金として30万円を納めるよりは、社員に10万円支給して有給取得を推進した方がよい」という人事的・経営的判断は容易にできると思います。しかも、社員は「休暇を取りやすい環境」と「補助金」が得られるというプラスしかないので、まさに「WinWin」の状況とも言えます。
業務目標の変更も行わない?
ニュース記事には記載されていなかったので、今回の「週休3日制」による業務調整は行われないと推察します。すなわち、営業日数が減るから売上目標数値などもそれにあわせて減らすといったことは、想定していないようです。
マイクロソフト社内であれば、そもそも同じ状況なので「何とでもなる」かもしれませんが、他社とのやり取り・契約・サービス提供/受領といった場合は、そうもいかないでしょう。とはいえ、全年が週休3日制というわけではなく8月だけなので、前後期間で調整していくというのが現実的な対応かと思います。
「勤務時間数による評価ではなく、成果による評価をより明確にした」とも言えるかもしれません。とはいえ、マイクロソフト社ならば、既に評価制度として「Pay for performance」の考え方は定着しているだろうと推察しているので、何かが大きく変わったとは言えないでしょう。
また、マイクロソフト社の(会計)年度は7月スタートらしいので、8月の営業日数が少なくなったとしても、現時点(4月)から「そういうものとして」スケジューリングすればよいので、思ったよりも影響度合いは小さいのかもしれません。
今後の動向に期待しつつ、状況もキャッチアップしていきたいと思います。
<2019年12月30日追記>このプログラムの結果などについて続編として記事にしました。