最近、「戦略人事」という単語が人事界隈だけではなく一般的にも定着しつつあります。しかし、その一方で、「戦略人事」が指している実態が、あるべきもの/本来意味しているものとは乖離があることが多いなとも感じています。中には・・・
ことを、「戦略人事」としてとらえている方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなわけないです。
先日、↓のようなツイートをあげたところ、インプレッション・エンゲージメント数が普段の数倍も多かったです。それだけ、関心は決して低くないというか、「戦略人事」に対しての関心は高いのかと。
wantedly使ったリファラル採用だけが戦略人事ではない。人事=採用だけではない。入社後に社員が活躍して、ビジネス上の成功に達成するのをサポートするのが人事で、採用はその一部でしかない。人事の中での分野による専門性は必要だけど、その間の「壁」は低く、かつ、つながっている。
— Nagami_Aldoni Inc. (@nagami_aldoni) August 2, 2018
そもそも戦略人事とは?
まず最初にご理解いただきたいことは、「戦略人事」は人事部門だけのものではなく、全社的なものであるということです。また、それと同時に、「事業戦略と別の人事独自の「戦略」」があるわけでもありません。
事業戦略から鑑みて、競合他社との差別化・優位性を人事面から構築することが「戦略人事」と言えるでしょう。事業戦略の達成をサポートするための人事施策は、事業戦略から発生しているので、言い換えれば経営戦略のそのものでしょう。
事業戦略を支援するための人事施策は、当然のことだが採用だけではなく、人事の全ての機能(専門性)が含まれています。すなわち、育成・評価・報酬・労務やその土台となる人事情報管理などのことであり、総合的なものです。
戦略人事ではない例
戦略人事についてあれこれ考える前に、まずは「これは戦略人事ではない」と思う行動例をあげたいと思います。
HRBP
人事を専門的に職務経験として積んできた人の多くは、事業経験そのものが無いだけではなく、勤めている企業の事業内容すらも掌握していないことがあります。以前、私が勤務していた事業会社にも、いわゆるHRBP(HR Business Partner:事業部門を人事の面から戦略的に支援する役割を担う)と呼ばれる、部門の窓口的な人事担当者が何名かおりました。(あえて「窓口的」と書いています)
この方々は、たいていその部門のことだけを掌握しようとしており、それ以外の部門やましてや会社全体についてを理解しようとする雰囲気はさほど見られませんでした。確かに、その部門のことを第一に考えるべきとはいえ、会社全体の社員数や職種毎のだいたいの割合も掌握していない有様・・・。
HRBPといっても、あくまでも人事部門の中での担当にすぎず、それと掌握すべき情報レベルは違うと思うのですが・・・。担当している部門(事業)についてさぞ詳しいのかといえば、そこまででもなく、業務上、会社概要や各事業を社内外に説明することが多かった私とたいして変わらないレベル(笑)。
その割に、報酬・育成・評価などといったいわゆるCoE(Center of Expertise/ Excellence:人事に関する専門性を提供する役割を担う)側の課題となると、「部門側代表」みたいな顔をしつつ、部門側とCoEの間で伝書鳩的に内容を伝えるだけで、完全に丸投げ。私からすれば、「このレベルのHRBPならば単なる窓口だろ」と思うわけで・・・。
採用/研修担当
採用担当や研修担当は、転職エージェントや研修会社から営業を受けることによって、どちらかといえば「お客様」の立場になる機会が多いです。また、そういった環境にあるので、自分の本来の役割以上に「実力や裁量権がある」と誤解しやすい傾向があります。
人事の中でも新卒採用~内定~新人研修といった一連を担当している、いわゆる「採用・研修担当」の場合、全く社会人経験がない学生など明らかに「経験に差がある」方々と接していることが多いでしょう。
「頑張る就活生を応援する」「内定者にアドバイスをしつつ見守る」「社会人として自覚を持つよう教える」「現場に巣立っていくのを見送る」ことから、気がつけば「お山の大将」的なポジションを取りがちです。それを自覚していれば良いのですが、「自分の真の実力」だと勘違いする方もいらっしゃいます。こうなると戦略人事というより、一昔前の学校教育と変わらないと思います(笑)。
人事担当者間の情報交換会
人事担当者間の情報交換会も、インプットタスクとして必要かもしれませんが、他社で成功したツールや制度をそのまま導入してもうまくいくとは限りません。自社への展開に際して参考になるところ/除外(変更)した方がいいところなど、事例における要素の分解が自分でできないならば、単なる名刺交換とFacebook友達数を増やすだけの機会かもしれません。
会社をまたがった人事担当者を対象とした勉強会グループも、いろいろなところに顔だけ出していても、意味はないでしょう。そこで何を得て、どういったことを会社に還元した(しようとしている)のかが問われるはずです。そうでなければ、「経営陣が人事に対して不満」を持つだけではないでしょうか?
アクティブな人事同士での話以外は無駄。「事例くれくれくん」と、「何となくわかった気がするちゃん」ばかりだと思う。人事に対して、これも経営が人事に不満を持つところの一因な気がする。
人事スタッフ同士の情報交換の場は無駄なのか?機会はどう使うのかにかかっている https://t.co/CKchW109dp— 三木 芳夫 (@Y_Tronc) July 19, 2018
採用広報
人事部門は「社員のビジネスでの成功をサポートする」ことが求められていると思います。そのために、既存の社員の育成だけではなく外部からその会社にとって適切な人材を採用するため、どんな人材が必要なのかを分析し、世の中から探し出すことが(というと大げさですが)「採用」の目的です。
そういった目的のための施策が「採用広報」であり、その具体的なツールとしてWantedlyやオウンドメディアが位置付けられています。採用広報の本質は、候補者(潜在的な候補者も含む)に対して会社の状況を多角的に伝えることで、候補者がその会社で働くことがイメージできる/働いてみたいと思う情報を継続的に提供することです。Wantedlyなどのツールを使いはじめることは比較的簡単ですが、継続的運用は決して簡単ではありません。
立ち上げたはいいものの更新されない中途半端なサイトが放置されるくらいならば、「最初からやらない」「戦略的撤退(廃止)」をした上で、別の施策を模索した方がよいかもしれません。採用広報を行うことが目的ではなく、「外部からその会社にとって適切な人材を、適切なタイミングで見つける」ことがそもそもの採用の目的だからです。
それでは、どうすればよいのか・・・という私見については次の記事にアップしたいと思います。
<2018年8月17日追記> 続編をアップしました